捻挫(ねんざ)とは?原因から治療・予防まで徹底解説

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捻挫(ねんざ)とは?

捻挫とは、関節をつないで安定させる「靭帯(じんたい)」などの軟部組織が、ひねりなどの外力によって傷つくケガのことです。 日常生活からスポーツ時まで、幅広いシーンで起こりやすく、足首や手首、指の関節などが代表的な部位です。 一般的には足首で起きることを指すことが多いです。

1. 骨折と捻挫のちがい

骨折

骨そのものが折れたり、ひびが入っている状態を指します。レントゲンやCTなどの画像検査で確認できます。ある意味は骨折は骨で修復されるので、治る病気ではあります。

捻挫

骨に異常はなく靭帯や軟部組織が損傷している状態を指します。レントゲンでは骨折がないとわかっても、超音波検査やMRIなどで詳しく調べると靭帯が切れている場合もあります。靭帯は骨折と違い、靭帯で修復するわけではないので、その点は注意が必要です。

 

2. 捻挫の重症度と主な症状

下表は、捻挫の重症度を大まかに3段階に分けたときの症状や治療のポイントです。

段階 靭帯の状態 症状の特徴 治療のポイント
軽度 ・靭帯が少し伸びたり、小さく裂けている状態 ・痛みや腫れは軽め。
内出血が出る場合もある
・RICE処置で安静にする
・固定は短期間で済むことが多い
中度 ・靭帯が部分的に断裂している状態 はっきりした痛み/腫れ/内出血が生じる ・包帯・サポーターでの固定
・リハビリを段階的に行う必要がある
重度

 

・靭帯が完全に断裂している状態 強い痛みや大きな腫れ
・関節の不安定感が大きい
・ギプス固定や手術の検討
・長期的なリハビリが重要
・手術が必要になることも(靭帯再建術)

3. RICE処置とは

捻挫をしたときの応急処置として広く知られているのが「RICE処置」です。これは次の4つの英単語の頭文字を取ったものです。

安静 (Rest)

ケガをした関節を動かさず、まずはしっかり休ませます。痛みがある状態で無理に動かすと悪化する可能性が高まります。

冷却 (Icing)

氷や冷水で患部を冷やし、痛みや腫れを抑えます。1回あたり15〜20分を目安にし、数時間おきに繰り返すのが理想的です。

圧迫 (Compression)

包帯やサポーターを用いて患部を圧迫し、腫れや内出血の広がりを抑えます。ただし巻きすぎは血流障害を起こす可能性があるため注意が必要です。

拳上 (Elevation)

心臓より高い位置に患部を置くことで腫れの軽減を図ります。イスやクッションなどを活用するとよいでしょう。

4. 最近注目されている「PEACE & LOVE」アプローチ

近年、RICE処置だけでなく「PEACE & LOVE」という新しい考え方が注目されています。これは急性期~回復期までの段階に応じて、より包括的なリハビリ戦略を示したものです。

PEACE(急性期の対応)

Protection(保護)
最初の1〜3日程度は、ケガをした部位をさらに傷めないように保護・安静にします。

Elevation(挙上)
RICEと同様に、患部を心臓より高い位置に置いて腫れを抑えます。

Avoid anti-inflammatories(抗炎症薬を避ける)
炎症は回復のプロセスとして必要な反応でもあります。痛み止めや消炎鎮痛剤の使用は場合によっては有効ですが、過度に乱用すると自然治癒力を妨げるリスクがあるといわれています。

Compression(圧迫)
包帯やサポーターで適度な圧迫をし、腫れや内出血を抑えます。

Education(教育)
自分のケガの状態や治療法について理解を深めることで、適切なリハビリ計画を立てられます。医師や理学療法士としっかりコミュニケーションをとることが大切です。

LOVE(回復期の対応)

急性期を過ぎたら、痛みの範囲内で適切な負荷をかけ始めます。完全に休ませすぎると筋力や柔軟性が低下し、回復が遅れる可能性があります。

Load(負荷)
適切な範囲で患部へ負荷をかけることで、組織の再生を促し、リハビリの効果を最大限に引き出します。例えば、捻挫の場合には低強度の運動から始め、専門家の指示を基に徐々に負荷を増やしていく計画を立てるのが有効です

Optimism(前向きな気持ち)
心理面のサポートも回復には重要です。ポジティブなメンタルを維持することで、リハビリのモチベーションを高められます。

Vascularization(血流改善)
適度な運動やマッサージなどで患部の血流を高め、回復を促進します。

Exercise(運動療法)
筋力やバランス能力を再び高めるための運動を行います。痛みが出ない範囲で少しずつ負荷を上げ、再発予防に努めます。

PEACE&LOVEについてはこちらの動画でもわかりやすく紹介していますので、ご参照ください。
捻挫の処置について

5. 治療とリハビリの進め方

軽度の場合

RICEやPEACE & LOVEの「Protection・Elevation・Compression」を中心に行い、症状が落ち着いたら徐々に運動を再開します。

中度の場合

包帯やサポーターで関節をしっかり固定し、医師や理学療法士の指導のもとでリハビリを進めます。PEACE & LOVEの「Load」「Exercise」に基づいて、段階的に筋力強化やバランストレーニングを行うのが大切です。

重度の場合

完全断裂の場合はギプス固定や手術が必要になることがあります。術後もリハビリが欠かせません。再発を防ぐために、筋力や関節の動き、バランス感覚を丹念に鍛えます。重症な場合は繰り返してしまい、最終的には足首が破壊されて痛みのために歩けなくなることもあります。変形性足関節症という状態になることがあります。そちらについても動画で紹介していますので、ご参照ください。

変形性足関節症

6. 再発を防ぐためのポイント

関節周囲の筋肉を鍛え、ストレッチで柔軟性を高めることは、再発予防に効果的です。

正しいフォームの習得

スポーツや日常動作で関節に負担をかけにくいフォームを意識することで、捻挫のリスクを下げられます。

段階的な復帰

症状が落ち着いても、急に元のレベルの運動を再開すると再発しやすくなります。PEACE & LOVEの「Load」概念を参考に、少しずつ負荷を上げましょう。

段階的な復帰

サポーターやテーピングによる補強は、関節を安定させるうえで有効です。ただし、自己流で巻くと逆効果になる場合もあるので専門家に指導を受けることが望ましいです。テーピングについては動画でも解説していますので、ご参照ください。

捻挫のテーピング動画

Q&Aよくある質問

Q1. 痛みが消えたら冷却をやめて温めてもいい?

A1. ケガの急性期(1〜3日)を過ぎて腫れが落ち着いてきたら、温めて血流を促進する手段に切り替えることがあります。具体的な時期は症状や医師・理学療法士の判断によります。

Q2. 抗炎症薬は使わないほうが良い?

A2. 必要以上に使いすぎると、炎症という自然治癒のプロセスを阻害する可能性があるため、近年では急性期の安易な使用は推奨されません。ただし、痛みが強い場合などは医師と相談して適切に使うこともあります。

Q3. 捻挫が癖になるのはどうして?

A3. 捻挫を繰り返すと、靭帯がゆるんだり、関節を支える筋力やバランス感覚が弱まったりして、再発しやすくなると考えられています。しっかりリハビリを行うことが大切です。

Q4. どのタイミングで専門医に行くべき?

A4. 腫れや痛みが強い、関節がぐらついている、数日経っても症状が良くならない場合は、早めに整形外科を受診してください。骨折や重度の靭帯損傷が隠れている可能性があります。

Q5. スポーツに早く復帰したいが、どんなリスクがある?

A5. 靭帯がまだ回復していない段階で強度の高い運動を再開すると、再び捻挫したり、症状が悪化するリスクが高まります。PEACE & LOVEの「Load」を意識し、段階的に負荷をかけていくことが大切です。

8. 賛否両論がある点

「早期復帰か、完治まで休むべきか?」

早期復帰のメリット

運動感覚を途切れさせずに回復を進められる
運動不足による筋力低下を防げる

早期復帰のデメリット

十分に回復していない状態で負荷をかけるため、再発しやすい
炎症や痛みが長引く可能性がある

「抗炎症薬を使うか、なるべく控えるか?」

使うメリット

急性期の強い痛みを抑えることができ、日常生活が楽になる

使わないメリット

炎症という自然治癒プロセスを妨げずに進められる
副作用リスクを下げられる

いずれも、症状や目的、医師の判断によって最適なアプローチは変わります。自己判断で無理をせず、専門家のアドバイスを受けながら対応することが重要です。

9. まとめ

捻挫は関節を支える靭帯の損傷であり、適切な対応をしないと何度も同じところを捻ってしまう「癖づけ」に陥りやすいケガです。
従来のRICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)だけでなく、近年は「PEACE & LOVE」という考え方が提案され、炎症のコントロールと同時に回復期の運動療法やメンタル面のサポートも重視されています。

ケガをしたらまずは患部を適切に保護し、安静・冷却・圧迫・挙上を行いながら、炎症が落ち着いたら少しずつ運動を再開します。

長期的な再発防止には、筋力と柔軟性、正しいフォームの獲得、段階的な負荷のかけ方が大切です。
医師や理学療法士など専門家のアドバイスを上手に取り入れ、焦らず確実に回復を目指しましょう。

重要ポイントまとめ

捻挫は靭帯の損傷 → 放置すると癖になりやすい
RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上) → 急性期の基本的な対応
PEACE & LOVE → 最近注目されている包括的アプローチ
急性期~回復期でアプローチが変わる → 適切な時期に適切な処置を
専門家のアドバイスが重要 → 骨折の有無、重症度の確認、リハビリ計画など

ケガを甘く見ず、正しい知識をもとに行動することで、回復が早まり再発予防につながります。どうぞお大事になさってください。

参考文献

公益社団法人 日本整形外科学会. (2023). 捻挫・靭帯損傷に関する解説.
https://www.joa.or.jp/

Dubois, B. & Esculier, J.F. (2020). Soft-tissue injuries simply need PEACE & LOVE. British Journal of Sports Medicine, 54(2), 72–73.
https://bjsm.bmj.com/content/54/2/72

American Academy of Orthopaedic Surgeons. (2021). Sprains and Strains.
https://orthoinfo.aaos.org/

この記事を執筆した人
宇賀治 修平
  • 医学博士
  • 日本整形外科学会整形外科専門医
  • 日本足の外科学会認定医
  • 日本スポーツ協会認定スポーツドクター
  • 日本骨粗鬆症学会認定医
  • 日本整形外科学会認定リハビリテーション医