はじめに
「ゲームは身体に悪い」「子どもにはやらせたくない」
こうした声を、整形外科外来で毎日のように耳にします。
確かに、ゲームに熱中しすぎると
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姿勢が悪くなる
-
目が疲れる
-
指や手首が痛くなる
-
夜更かしにつながる
などの問題が起きることがあります。
しかし、これは ゲームそのものが悪いのではありません。
医学的に見ると、
“やり方”が悪いと身体に負担がかかる
というのが正しい理解です。
ポイントを押さえれば、ゲームはむしろ「脳」「運動」「集中力」に良い影響を与えることもあります。
この記事では、整形外科専門医として、ゲームとの正しい付き合い方を、科学的根拠を踏まえてわかりやすく解説します。
1.ゲームが悪者扱いされてきた背景
ゲームが登場した当初は、現代ほど姿勢や健康に関する知識は十分ではなく、
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うつむき姿勢での長時間プレイ
-
小さな画面を近くで注視する
-
夜更かししやすい
という“環境の悪さ”が影響し、
「ゲーム=健康に悪い」 というイメージが定着しました。
しかし近年、整形外科・脳科学・心理学の研究が進み、
“ゲームそのものに害があるわけではない”
ということが明らかになってきています。

2.ゲームによる身体への影響
ゲームは正しいやり方で行えば安全ですが、間違った姿勢や環境で行うと、次のような負担が生じます。
(1)姿勢の崩れ(猫背・スマホ首)
スマートフォンや携帯型ゲーム機を長時間使用すると、
首が前に倒れた状態が続きます。
首の角度が45度になると、
頭部の重さは約20kg相当 の負荷になります。
これは頸椎(けいつい:首の骨)にとって非常に大きなストレスです。
“スマホ首”“ストレートネック”の原因になります。
(2)手・指の使いすぎ(腱鞘炎・ばね指)
ゲームの細かい操作は、
手首・指の腱に反復したストレスがかかるため、
-
腱鞘炎
-
ばね指
-
手首の痛み
が出やすくなります。
とくにスマホゲームは親指だけで強く押す姿勢が続くため、症状が起こりやすい特徴があります。
(3)腰痛・肩こり
長時間同じ姿勢を保つことが、腰・肩・背中の筋肉の血流を低下させ、痛みにつながります。
とくに以下のような姿勢は危険です。
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低すぎる椅子
-
高すぎる机
-
前のめり姿勢
-
猫背
-
片肘をついて身体が左右に傾いた姿勢
(4)目の疲れ
正確には視力低下ではなく、ピント調節筋の疲労です。
長時間近くを見ることで、
-
目の奥の痛み
-
見えにくさ
-
頭痛
が起こることがあります。
(5)睡眠の質の低下
ゲームは楽しい分、脳が興奮し、寝る前のプレイは睡眠の質を大きく下げます。
特に中学生以下では、成長ホルモンが夜に分泌されるため、
夜遅くまでのゲームは成長にも影響します。

3.実はゲームにはメリットもある
ゲームには悪い影響ばかりではなく、近年では認知機能・運動機能に良い影響があることが研究で示されています。
(1)反応速度が向上
アクションゲーム・対戦ゲームでは、
素早い判断 → 指の動作
を繰り返すため、反応速度が鍛えられます。
これはスポーツや日常生活にも役立つ能力です。
(2)集中力が高まる
ゲームは“目的達成型”“時間制限型”が多いため、
注意を持続させるトレーニングになります。
発達支援に利用されることもあります。
(3)空間認識能力が鍛えられる
3Dマップを移動するゲーム(FPS・TPS・建築ゲームなど)では
立体的に物を見る能力=空間認識能力
が鍛えられます。
この能力は、
スポーツ・デザイン・手術など、幅広い分野で活きます。
(4)手と目の協調が鍛えられる
画面を見ながら瞬時に指を動かす行為は、
“手と目の協調運動(Eye-Hand Coordination)”を発達させます。
(5)ストレス解消
適度なゲームはストレス解消として非常に有効です。
脳科学的にも、“達成感”“リフレッシュ効果”が確認されています。
(6)高齢者の認知機能トレーニング
Switchの脳トレ・リズムゲームは、
高齢者施設や医療分野でも活用されています。

4.整形外科医が推奨する“ゲームをしてもいい条件”
ここからが最も重要なポイントです。
ゲームは適切な条件を守れば安全で、むしろメリットも得られるツールになります。
整形外科専門医として、次の6つの条件を推奨します。
(1)1時間遊んだら10分休憩
同じ姿勢が続くと、
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首
-
肩
-
腰
-
手首
の血流が低下し、痛みやコリの原因になります。
「1時間遊ぶ → 10分休む」のサイクルを守れば、身体への負担は大きく減ります。
休憩中は
・立ち上がる
・背伸びをする
・肩を回す
・指と手首のストレッチ
を行うとより効果的です。
(2)画面は“目から40cm以上”離す
特にスマホは顔の近くで使いやすく、
“目のピント調節筋”に大きな負担がかかります。
40cm=前腕の長さ1本分くらいを目安にするとよいです。
(3)椅子と机の高さを合わせる
理想の姿勢は次の通りです。
-
肘が90度
-
足裏がしっかり床につく
-
画面の上端が“目の高さ”
-
背中を自然に伸ばす
この姿勢を作るだけで、
肩こり・腰痛の予防効果は非常に高まります。
(4)夜は22時まで(中学生以下)
理由は2つあります。
① ゲームの興奮で睡眠の質が低下する
② 成長ホルモンが夜に分泌される
特に成長期は、夜更かしが身長や体力に影響する可能性があります。
(5)平日は短め、休日は長めでOK
平日の学業に影響させないためには、
-
平日:30〜60分
-
休日:2〜3時間
が最も現実的で健康的です。
(6)“感情的な禁止”をしない
親が感情的に叱ると、子どもは
-
隠れてゲームをする
-
嘘をつく
-
ゲームへの執着が強くなる
と逆効果になります。
一番大事なのは
ルールを“淡々と伝える”ことです。

5.デバイス別に注意するポイント
ゲーム機の種類によって、身体の負担がかかる場所が変わります。
●スマホゲーム
最も負担が大きいデバイスです。
-
首が深く曲がる
-
親指だけを酷使
-
画面が近すぎる
改善方法:
・目の高さまで持ち上げる
・両手持ちにする
・ベッドで横になって遊ばない
・30〜60分で休憩
●Nintendo Switch(携帯モード)
・手首が固定される
・親指に負担が集中
改善方法:
・Joy-Conを分離して使う
・テーブルに置いて遊ぶ
・Switchスタンドを活用
●PS5など据え置きゲーム
姿勢の良し悪しがダイレクトに反映されるタイプ。
改善方法:
・椅子とテレビの高さ調整
・腰クッションの追加
・肘角度を90度に統一
●PCゲーム
長時間遊びやすく、肩・首・腰に負担がかかりやすい。
改善方法:
・モニターの上端を目の高さへ
・手首パッドを使う
・1時間に1回は立つ
・椅子の高さを調整

6.ゲーム前後に行うべき“リセット・ルーティン”
ゲームによる疲れの多くは、姿勢が固まり血流が落ちることが原因です。
そのため、ゲームの前・途中・後に簡単な“リセット運動”を取り入れるだけで痛みは大きく減ります。

【ゲーム前】3分の準備
-
胸を広げるストレッチ
-
首のゆっくり回し
-
大きな背伸び
-
手首の軽い回旋
【ゲーム中】60分に1度のリセット
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立ち上がる
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肩を回す
-
手首・指のストレッチ
-
深呼吸
【ゲーム後】リカバリー
-
お尻のストレッチ
-
ハムストリングス伸ばし
-
腰ひねり
-
首・肩のストレッチ
“痛みの出る人ほど、ゲーム後のケアが足りていない”傾向があります。

7.親子で守りやすい「おすすめルール」
整形外科医として多くの患者さんと関わってきましたが、
家庭でうまくゲームと付き合っている家では、必ずルールがシンプルです。
① 平日は短め、休日は長め
家庭のリズムを崩さず、メリハリがつきます。
② 夜は遅くまで遊ばない
成長期の子どもにとって最重要です。
③ ベッドの上では遊ばない
姿勢が崩れ、睡眠にも影響します。
④ アラームで“終了時間”を可視化
子ども自身が管理する習慣が身につきます。
⑤ 親子で一緒に遊んでみる
一緒に遊ぶと“監視”ではなく“コミュニケーション”になります。

8.ゲームは悪ではない。大事なのは“使い方”
最後に最も伝えたいことがあります。
ゲームは悪いものではありません。
-
姿勢
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時間
-
遊ぶ環境
-
使い方
-
家庭内ルール
これらが整っていれば、
ゲームは子どもの成長にも、大人の健康にも、良い影響を与える可能性があります。
ゲームに罪はありません。
問題は、ゲームの“扱い方”です。
正しい知識と環境があれば、
ゲームは教育にも運動にもストレス発散にも役立つ素晴らしいツールになります。

Q&Aコーナー

🔍Q1:ゲームをすると姿勢が悪くなるって本当ですか?

A:本当ですが、“ゲームが原因”ではなく“姿勢の作り方”が原因です。
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画面が近い
-
下を向く角度が深い
-
長時間同じ姿勢
これらが首・肩・腰に負担をかけ、痛みや猫背の原因になります。
対策:
・画面は40cm以上離す
・目線の高さに近づける
・30〜60分で休憩する

🔍Q2:スマホゲームとSwitch、身体に悪いのはどっち?

A:スマホのほうが身体に負担が大きいです。
理由は
-
下を向く角度が深い
-
親指だけを酷使する
-
画面が近い
からです。
SwitchはJoy-Conを分離すれば負担が大きく減ります。

🔍Q3:ゲームをすると視力が悪くなりますか?

A:視力が“直接落ちる”わけではありません。
正しくは
-
ピントを合わせる筋肉が疲れる
-
目の乾燥(瞬きの減少)
が起きるため、「見えにくい」と感じるだけです。
対策:
・1時間に1回、遠くを見る
・画面の距離を確保
・明るい場所でプレイする

🔍Q4:ゲームは1日何時間までOKですか?

A:連続して“1時間”を超えなければ柔軟に考えてOKです。
・中学生以下 → 1〜2時間
・高校生以上 → 2〜3時間
※ただし「30〜60分で休憩」は必須
身体への負担は “合計時間”より“連続時間” で決まります。

🔍Q5:長時間ゲームすると手首が痛くなるのはなぜ?

A:腱鞘炎(けんしょうえん)の初期症状の可能性があります。
特に
-
親指だけ使う
-
手首を浮かせる
-
冷えた状態で連打
という操作は負担が大きく、痛みや“ばね指”の原因になります。

🔍Q6:ゲームをすると腰痛が出るのですが?

A:椅子・机・画面の高さが合っていない可能性が高いです。
とくに注意すべき姿勢は:
-
足が床につかない
-
肘の角度が90度以上
-
背中が丸い
など。
正しい姿勢にすると8割が改善します。

🔍Q7:寝ながらゲームしても良いですか?

A:絶対におすすめしません。
理由
・首がねじれる
・腰が痛くなる
・肩が固まる
・睡眠の質が下がる
姿勢が崩れるだけでなく、寝る前のゲームは脳が興奮して眠りにくくなります。

🔍Q8:夜遅くにゲームをすると成長に悪いですか?

A:睡眠が乱れると“成長ホルモン”の分泌に影響します。
特に中学生以下は
22時までに寝ることが理想 です。
夜ゲーム → 興奮 → 寝るのが遅くなる → 成長に影響
という流れは本当に多いです。

🔍Q9:プロゲーマーは身体を壊さないの?

A:プロは“姿勢・環境・休憩の管理”が徹底しています。
-
特注の椅子
-
モニターの角度調整
-
手首サポート
-
定期的なストレッチ
-
1時間に1回の休憩
いわば“身体を守るプロ”でもあります。

🔍Q10:子どもにゲームを許可するときのポイントは?

A:感情的な禁止より、“仕組みづくり”のほうが圧倒的に効果的です。
おすすめは
① 平日は短め、休日は長め
② タイマーで時間管理
③ リビングでプレイ
④ 21〜22時以降はやらない
⑤ ゲーム前後にストレッチ
⑥ 親が淡々とルールを伝える
親の怒りが強いほど、子どもは“隠れてゲームをする行動”に走ります。

🔍Q11:ゲームの後に体が痛くなるのですが?

A:ゲーム後に“ストレッチが足りていない”だけのことが多いです。
ゲーム後におすすめの3つ:
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首の軽い回し
-
お尻のストレッチ
-
ハムストリングス伸ばし
これだけでも痛みが半減します。

🔍Q12:漫画とゲーム、どちらが身体に悪いですか?

A:読み方・遊び方次第でどちらも安全に楽しめます。
悪いのは“コンテンツ”ではなく“姿勢と環境”です。

🔍Q13:ゲームをすると勉強に悪いですか?

A:正しく使えば勉強の効率が上がることもあります。
・気分転換
・集中のオンオフ
・ストレス減少
禁止するより“ルール化”が最も効果的です。

🔍Q14:ゲームで子どもの成績が下がることはありますか?

A:時間管理ができていない場合のみ“下がるリスク”があります。
正しくルールを守れば、成績には影響しません。

🔍Q15:ゲームは脳に悪いですか?

A:近年の研究では“適度なゲームは脳機能を強化する”とされています。
-
反応速度UP
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判断力UP
-
空間認識力UP
-
手と目の協調性強化
「ゲーム=脳に悪い」は古い情報です。
この記事のまとめ
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ゲームは悪者ではない
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問題は“姿勢・時間・環境”
-
1時間に1回の休憩が最重要
-
画面との距離は40cm以上
-
夜遅くのゲームは避ける
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子どもには“ルールを淡々と伝える”
-
デバイスに応じた姿勢の工夫も必要
-
ゲーム前後のリセット運動が効果的
この記事はこんな方におすすめ
-
子どもがゲームばかりで心配な方
-
ゲームで首や腰が痛くなる方
-
スマホ首・猫背で悩んでいる方
-
ゲームを禁止するべきか迷っている親御さん
-
仕事や勉強とのバランスに悩む学生さん






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