PRP療法は保険適用にいつなるか?最新の研究と今後の見通しについて徹底解説!

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PRP療法は保険適用にいつなるか?

はじめに

近年、「体が自分でケガを治す力」を使って、関節や筋肉・皮膚などを修復する治療法が注目を集めています。なかでも有名なのがPRP(ピー・アール・ピー)療法と、さらに新しい研究テーマとして話題になっているエクソソームです。これらは再生医療の一種で、スポーツ選手から美容目的の人たちまで幅広く利用され始めています。

このブログでは、PRP療法とエクソソームについて、

1.どんな仕組みなのか
2.保険が使えるのか
3.研究がどこまで進んでいるのか

などを中学生のみなさんにも分かりやすい言葉でお伝えします。最後にQ&Aコーナーや参考文献も載せていますので、気になるところをぜひ読んでみてください。

第1章:PRP療法ってどんなもの?

1-1. PRPとは?

PRPとは“Platelet-Rich Plasma”の頭文字を取ったもので、日本語だと「血小板が濃縮された血漿(けっしょう)」という意味です。血小板とは、私たちの血の中にある小さな粒のようなもので、ケガをしたときに血を固めたり、組織を修復するときに大切な役割をします。

PRP療法では、

  1. 自分の血液を少し採血する
  2. 採血した血液を遠心分離機(えんしんぶんりき)という機械にかける
  3. 血小板をたくさん含む部分だけを取り出す
  4. それを痛いところやケガをしたところに注射する

という手順で治療します。血小板に含まれる「成長因子(せいちょういんし)」が、体が傷を治そうとする力を高めてくれるのです。

1-2. どんな症状に使われるの?

  • スポーツによるケガ(ひざやひじ、かかとなどのけん・じん帯損傷、半月板損傷)
  • 変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)、主に変形性膝関節症
  • 慢性的な痛み(腰や肩など)
  • 美容目的(シワやたるみ、薄毛・脱毛など)

など、幅広い分野で活用されています。ただし、病院やクリニックによって得意分野が違う場合があるため、治療を受ける際はしっかり情報を集めることが大切です。

第2章:PRP療法は保険が使えるの?

2-1. 保険適用の現状

日本では、PRP療法は現在ほとんどが**自由診療(保険がきかない治療)**となっています。自由診療だと、治療費は患者さん自身が全額払わなければならないので、数万円から数十万円など高額になることもあります。なぜ保険が使えないかというと、まだ「多くの人に明らかに役立つ」という確かなデータ(エビデンス)が十分にそろっていない部分があるからです。

2-2. いつ保険が使えるようになるの?

保険が使えるようになるためには、以下のような流れが必要です。

  1. 多くの患者さんを対象にした大規模な研究を行う
  2. その研究で「効果がある」「安全性が高い」ことがはっきり示される
  3. 厚生労働省などの機関がそのデータをチェックし、「これは有効だ」と判断する
  4. 診療報酬(しんりょうほうしゅう)の仕組みで点数がつく

この手順にはどうしても数年単位の時間がかかります。PRP療法に関しては世界中で研究が進められていますが、まだバラバラの方法が使われており、統一した結果を得るのが難しいという課題があります。ですので、「保険が使えるのはいつか」と明確に言えないのが今の現状です。

第3章:どこまで研究が進んでいるの?

3-1. PRP療法の研究

  • **ジャンパーズニー(膝のケガ)**にPRPを注射したら、痛みが改善した
  • という海外の研究があります(The American Journal of Sports Medicine, 2020年)。
  • 反対に、プラセボ(偽物の薬)と比べても大きな差が見られなかったという研究もあり、結果が一致していません。
  • 研究の方法が違う(血小板をどのくらい濃くするかなど)ため、「こうすれば必ず効果がある」という決定的なやり方がまだ定まっていません。
  • 変形性膝関節症については、一部のメタ分析(多くの研究をまとめて調べること)で「PRPの方がヒアルロン酸より痛みが減った」という報告もあります。しかし追跡期間や評価の仕方がそれぞれ違うため、もっと大きなデータの集まりが必要だといわれています。

3-2. エクソソームの研究

最近は、**エクソソーム(Exosomes)**という新しい治療の可能性が注目されています。エクソソームとは、細胞が出すとても小さな袋(30〜150nm)で、中にmRNAやたんぱく質などが入っています。これらは体の中で「細胞どうしが情報をやりとりする」働きを持ち、再生や修復を助けると考えられています。

  • 幹細胞(なんにでもなれる特別な細胞)から出るエクソソームを動物のケガした場所に入れると、治りが早まったという実験がいくつか報告されています。
  • しかし、まだヒトでの大規模な研究が少ないです。エクソソームを使った治療は、PRP以上に研究途中の段階であり、実際の患者さんへの応用が普及するまでには時間がかかると予想されています。

第4章:PRPとエクソソームのちがい(比較表)

項目 PRP療法 エクソソーム療法
由来 自分の血液(血小板) 幹細胞などが分泌する小さな袋(自分由来や他の人由来の可能性がある)
メインの成分 血小板に含まれる成長因子(PDGF, TGF-β, VEGFなど) mRNA、miRNA、たんぱく質、脂質など多様な情報
作用のイメージ ケガの修復をサポートする成長因子を直接注射して回復を促す 「細胞どうしがやりとりする情報」を届けて修復をサポート
保険適用の状況 現在は自由診療が多い 研究・治験段階が多く、自由診療として行う場合もある
研究データの量 スポーツ整形や美容で比較的多くの論文がある 最近急成長中だが、まだ基礎研究や小規模な臨床研究が多い
メリット 自分の血液なのでアレルギーが起こりにくい 細胞を移植せずに再生効果が期待できる
デメリット 研究のしかたや作り方にばらつきがあり、効果が一定しない場合がある 大量生産や安全管理など、まだ乗り越える課題が多い

第5章:Q&Aコーナー

Q1. PRP注射は痛くないの?
A1. 血液を採るときと注射をするときに、多少の痛みを感じる場合があります。局所麻酔(じょくしょますい)を使うこともあり、激しい痛みになることはあまりないとされています。

Q2. 何回くらい受ければいいの?
A2. 一般的には1~3回注射をして、その様子を見ながら回数を決めます。人によって必要な回数や間隔はちがうので、お医者さんと相談しましょう。

Q3. エクソソームとPRP、どっちがいいの?
A3. エクソソームの研究はまだ始まったばかりで、大きなデータが少ないです。PRPは症例が多いですが、結果にばらつきもあります。症状や目的によってどちらが向いているかは変わるので、専門家と相談してください。

Q4. 保険適用を待ったほうがいい?
A4. 痛みや症状が悪化しやすいときは、保険を待っているうちにもっと状態が悪くなることもあります。費用とのバランスを考えつつ、医師とよく話し合って決めることが大事です。

Q5. 安全性は大丈夫?
A5. PRPは自分の血液を使うので、他人の血液による感染症などのリスクは少ないです。ただし針を刺すので、注射部位の炎症や感染症の可能性はゼロではありません。エクソソーム療法はさらに新しいため、安全性を調べる研究が今まさに進められています。

第6章:参考文献(もっと詳しく知りたい人向け)

  1. Marx RE: “Platelet-rich plasma: evidence to support its use.”
    J Oral Maxillofac Surg. 2004;62(4):489-96.
  2. Filardo G, Di Matteo B, et al. “Platelet-Rich Plasma Injections for the Treatment of Recalcitrant Jumper’s Knee.”
    Am J Sports Med. 2020;48(13):3306-3314.
  3. Dai WL, et al. “Efficacy of Platelet-Rich Plasma in the Treatment of Knee Osteoarthritis: A Meta-analysis.”
    Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2019;27(3):695-706.
  4. Théry C, Witwer KW, et al. “Minimal information for studies of extracellular vesicles 2018 (MISEV2018).”
    J Extracell Vesicles. 2018;7(1):1535750.
  5. 厚生労働省「先進医療の概要」
    https://www.mhlw.go.jp/https://www.mhlw.go.jp/https://www.mhlw.go.jp/

これらの文献は専門的な英語も多いですが、世界中の研究者がどういう実験や調査をしたか知ることができます。もっと詳しく学びたい人は、要約やレビュー記事を探して読んでみるのもよいでしょう。

おわりに(まとめ)

  • PRP療法は、自分の血液からとりだした成長因子で、ケガや痛みをやわらげたり修復を促したりする治療です。自由診療が多く、保険適用になるには研究で確かな効果が示される必要があります。
  • エクソソームは、細胞が出す小さな袋に入った情報を使う再生医療の新しいアプローチです。まだ研究途中で、今後の大規模研究が期待されています。
  • 保険が使えるようになれば治療費が安くなる利点がありますが、それまでには十分なデータをそろえ、大きな組織の承認を得る手間と時間が必要です。
  • もしPRPやエクソソームの治療を検討する場合は、医師や専門家に相談し、自分の症状や費用面をよく考えて決めることが大切です。

以上が、PRP療法とエクソソームに関するトピックを中学生にもわかるようにまとめた内容です。自分の体が持っている力を活かして治す最先端の医療分野だけに、将来さらに発展する可能性があり、多くの人にとって助けになる日が来るかもしれません。興味があれば、ぜひ今後の研究ニュースなどにも注目してみてください。

 

この記事を執筆した人
宇賀治 修平
  • 医学博士
  • 日本整形外科学会整形外科専門医
  • 日本足の外科学会認定医
  • 日本スポーツ協会認定スポーツドクター
  • 日本骨粗鬆症学会認定医
  • 日本整形外科学会認定リハビリテーション医