
PRP療法(切らない治療)の概要
切らない治療は、関節や筋、腱の痛みを解消するための最先端の治療法として注目されています。特に、膝や肩などの関節の痛みに悩む人々にとって、切らない治療は大きな希望となっています。
PRP療法(Platelet-Rich Plasma療法)は、自分の血液から自己血小板血漿を利用して治療効果を期待する治療法です。血液中の血小板は、成長因子やサイトカインと呼ばれる治癒に働くタンパク質が豊富に含まれているために、細胞の増殖や修復を促進する働きがあります。PRP療法では、患者さん自身の血液から抽出し、濃縮された血小板を含む血漿を患部に注入し、自然治癒力を活用して痛みや炎症の軽減、組織の修復を促進します。そのためにまずは採血が必要であり、その後そこから濃縮された血小板を抽出するという工程が必要となります。当院では、採血から約3週間で投与が可能となります。
関節へのPRP療法は、痛みに対する効果が注目されています。関節や腱の痛みを大幅に軽減するという報告もあり、日常生活を快適に過ごせる様になる可能性もあります。
患者さんそれぞれに適した治療法を選択できるよう、まずはしっかりと診察を行い、必要性や期待できる効果について一緒に検討することが大切です。


漫画でわかるPRP!




適応症状
PRP療法は、様々な症状や疾患に対して効果が期待されています。以下に主な適応症状を示します。
- 関節炎(変形性関節症など)
- スポーツ障害(軟骨損傷、腱損傷など)
- 腱鞘炎や腱炎
- 骨折の治癒促進
- 美容分野(皮膚の若返り、抜け毛の改善など)(皮膚の若返り、抜け毛の改善など)


治療の流れ
PRP療法は、以下の手順で行われます。
問診・診察
治療前に、患者さんの症状や健康状態を把握するために問診や診察を行います。必要に応じて、画像診断(例:X線やMRI、超音波画像検査)などを行い、適応を見極めます。
血液採取
患者さんの腕から50ml程度の血液を採取します。
PRPの調製: 採取した血液を遠心分離機で処理し、血小板が濃縮された血漿(PRP)を作成します。

PRP注入
調製したPRPを患部に注入します。注入の際、超音波画像検査は必ず使用します。正確な位置に到達することが重要となるので、超音波画像検査を使用しながら入れることにより確実に注入させます。
アフターケア
注入後は、患部を冷やすことで痛みや腫れの軽減が図られます。また、数日間は安静にして激しい運動や負荷のかかる活動を避けることを推奨させていただいております。
- 患部の冷却や固定
- 数日間の安静
- 痛みや腫れが続く場合には医師へ相談
治療自体に痛みを伴うことがあります。しかし、その痛みは一時的なものであり、治療後の関節の痛みの軽減を考えると、大きなメリットがあります。

治療回数と期間
PRP療法の回数や期間は、患者さんの症状や治療の進行具合によって異なります。一般的には、1週間おきに2回程度の治療が行われることが多いです。治療効果は個人差がありますので、すぐに改善が見られる方もいれば、数回の治療後に徐々に効果が現れる方もいます。普段当院で行なっているような注射とは違い、打った瞬間に効果が出るわけでもないので、焦らずに休む必要がありますので、治療の時期については十分な相談の上に行いたいと思っております。

副作用と注意点
PRP療法は自己血液を使用するため、他の物質によるアレルギー反応や感染リスクが通常の注射よりもはるかに低い治療法です。ただし、まれに以下のような副作用が発生することがあります。
- 注入部位の痛みや腫れ
- 皮下出血
- 感染(非常にまれ)→これはどんな注射にもあります。
重ねてお伝えしますが、治療後は、数日間は激しい運動や負荷のかかる活動を避けることが推奨されます。また、副作用が続く場合や新たな症状が出現したといった場合は、速やかに医師までご相談ください。

PRP療法の効果
総合的な評価や患者さんの満足度から、PRP療法は効果的であるとされていますが、残念ながら必ずしもすべての患者さんに効果があるわけではありません。まずは診察を受けていただき、効果が期待できない場合はお勧めしない場合もあります。また、治療効果が不十分な場合は、医師や理学療法士と相談し、他の治療法を検討することが重要となります。
PRP療法は特に膝の痛みに効果があるとされています。一方、足関節に対しての効果は乏しいというデータも出ています。
- 痛みの軽減
- 炎症の抑制
- 組織の修復・再生(軟骨、半月板など)
ACL損傷、半月板損傷に有用であったという論文を紹介します。
2022 Mar Exp Ther Med
Efficiency of platelet-rich plasma therapy for healing sports injuries in young athletes
半月板損傷と診断された72人の若いアスリートに対して、安静のための固定後に一次治療の強化としてPRP療法を施行した。PRP療法後に痛みが改善し、評価スコアが改善したことを明らかにした。同時に、患者の83.3%がスポーツや毎日の身体活動に戻ることができた。PRP療法は、安全で管理が簡単で、痛みの軽減に効率的で、部分的な半月板またはACLの涙を持続した若いレクリエーションアスリートのためのスポーツ活動の再開であると結論付けることができ、痛みの軽減の面では、PRP療法はACL損傷を持つ若い患者にとってより効率的であるようです。
最新の研究報告
- Lisitsyn et al. (2021)
PRP治療により半月板損傷の進行が抑制され、患者のレーティングスケール(痛みや機能評価)での向上が確認されました。MRI評価においても、治療後6ヶ月時点で退行性プロセスの進行が見られなかったと報告しています。 - Xie et al. (2021)
メタアナリシスにより、手術時にPRPを併用することで痛みや膝関節機能が改善する傾向が示唆されました。ただし、治療後1ヶ月および12ヶ月以降の追跡調査においては、PRP群と非PRP群のあいだで有意な差が確認されなかったとの報告もあり、さらなる長期的研究が必要とされています。 - Bondariev et al. (2022)
PRP治療後の**短期間(最大3ヶ月)および長期間(最大3年)**での臨床的効果(痛みの軽減、関節機能の改善)が示され、持続的な有用性が期待できると述べられています。 - Omara et al. (2023)
超音波ガイド下でPRP注射を行うことで、外傷性半月板損傷患者の痛みや機能的スコアが改善されたと報告。正確な注入が必須であることを改めて強調しています。
その他の参考文献
- Filardo G, Kon E, Di Martino A, et al. (2012).
Arthroscopy. 28(10): 1487-1496.
PRPは変形性膝関節症の症状改善に有効である可能性が示され、特に軽度〜中等度の変形性膝関節症において痛みと機能評価が改善したとの報告があります。 - Dai WL, Zhou AG, Zhang H, Zhang J. (2017).
Arthroscopy. 33(1): 135-146.
ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスにて、PRPが変形性膝関節症の痛みと機能改善に対してプラセボやヒアルロン酸よりも優れている可能性が示唆されています。

保険適用について
PRP療法は、現代の医療制度では健康保険が適用とはなりませんので、完全な自由診療となります。当院では税込165,000円となります。都会の方で受けようと思うと30万円程度が相場となりますので、リーズナブルに治療が可能です。それでも非常に高額な治療となりますので、説明を聞き、十分に納得した上で治療を受けていただければと思います。これまでの説明を十分に納得し、理解した上で御検討ください。

PRP療法と他の治療法との併用
PRP療法は、他の治療法と併用することで、効果を最大化することができます。例えば、リハビリテーションや物理療法、マッサージなどの非薬物治療や、炎症や痛みを抑える薬物療法と併せて行うことで、総合的な治療効果が向上することが期待されます。当院ではPRP療法を行なった患者様には必ずリハビリを行なっていただいております。PRPを注入したから何もしなくてもよくなると言う魔法の治療ではないと考えています。成長因子による炎症の改善や軟骨、半月板の再生が起き、一旦改善が得られても同じような行動、運動を繰り返していては、また元の症状に戻ってしまうからです。重要なのはPRP療法をやる前の状態よりも筋肉、運動を含めてより良い状態にならなければいけないと言うことです。
そのため当院ではPRP療法を行う患者様には必ず運動療法、リハビリテーションを推奨しております。


予防策
PRP療法での効果を維持するために、日常生活で予防策を実践することが、再発や悪化を防ぎ、長期的な健康維持につながります。以下のような予防策を心がけましょう。
適度な運動
筋力の維持や関節の可動域向上に役立ちます。
栄養バランスの良い食事
健康な骨や関節、筋肉の維持に役立ちます。
適切な体重の維持
関節への負担を軽減し、症状の悪化を防ぎます。いつもお伝えしてしまいますが、非常に重要なことですので、症状を増悪させないように適切な体重を維持することを念頭においていただけると幸いです。
良好な姿勢の維持
筋肉や関節に適切な負荷をかけることで、症状の悪化を防ぎます。
リハビリテーションの継続
PRP療法の効果を高めるためにも、医師や理学療法士の指導のもと、正しいリハビリを続けましょう。
Q&Aコーナー
ここからは、PRP療法に関して患者さんからよくいただく質問をQ&A形式でまとめました。さらに詳しい不明点がありましたら、遠慮なくご相談ください。
Q1. PRP療法はすぐに痛みが消えるのですか?
A. すぐに痛みが劇的に消えるケースはまれです。PRP注射による効果は個人差が大きく、痛みの軽減や炎症の抑制が出るまで数週間~数ヶ月かかることもあります。
Q2. 何度もPRP注射を受ける必要がありますか?
A. 治療計画は症状の程度や部位によって異なりますが、1回~数回実施することが多いです。症状によっては追加注射が必要になる場合もあります。
Q3. 血液はどれくらい採取するの?
A. 通常は50ml程度の採血を行います。一般的な献血(200mlや400ml)より少ない量ですので、ご安心ください。
Q4. 治療後の安静期間はどのくらい必要ですか?
A. 個人差がありますが、注射後数日間は激しい運動を避けるように指導しています。痛みや炎症の程度をみながら段階的に活動を再開しましょう。
Q5. 他の注射や手術と併用できますか?
A. 原則として併用は可能ですが、タイミングや組み合わせは治療効果に影響する場合があります。主治医や理学療法士と十分に相談して計画を立てることをおすすめします。
Q6. 副作用やリスクはありませんか?
A. 自己血液由来のためアレルギーリスクは低いですが、皮下出血や注射部位の腫れ、感染などのリスクはゼロではありません。注射後に異常が続く場合は医師に相談してください。
Q7. 他院でPRP注射を受けたが効果がなかった。再挑戦の意味はある?
A. PRPの調製方法(濃度や遠心分離の設定)、注入技術(超音波ガイドの有無)、リハビリテーションの有無などによって結果が左右されることがあります。また、患者さん自身の体調や既存疾患の程度も影響します。同じPRP治療でも条件が異なれば結果が違う可能性もありますので、再挑戦を検討する場合はしっかりと専門医に相談しましょう。
Q8. 費用が高いのはなぜ?
A. PRP療法は保険適用外の自由診療であり、検査機器や遠心分離機のコスト、施術に要する人的リソースなどが含まれます。当院では都心部よりもリーズナブルな価格に設定していますが、それでも高額になる治療であることは間違いありません。
Q9. スポーツ復帰はどのくらい後から可能?
A. PRP療法後の回復状況は個人差が大きいですが、早い場合で数週間、長い場合は数ヶ月をかけて段階的に復帰していくことが多いです。主治医やリハビリ担当者と相談しながら計画的に進めましょう。
Q10. どんなスポーツ・運動にも効果は期待できますか?
A. スポーツの種類や傷害部位によっても効果は変わります。特に膝・肩・肘など関節の負荷が大きいスポーツではPRP療法が有効な場合がありますが、腱・靭帯の損傷度合いや術後の回復ステージなど個々の状態によって異なるため、まずは専門家の診断が必要です。

まとめ
PRP療法は、自己血小板血漿を利用した治療で、関節炎やスポーツ障害、美容分野など、様々な症状や疾患に効果が期待されます。副作用リスクが低く、自然治癒力を活用するため、安全性が高い治療法とされています。ただし、効果は個人差があり、必ずしもすべての患者さんに効果があるわけではありません。そのため、治療効果が不十分な場合は、医師とも相談し、他の治療法やリハビリテーションの導入を検討することが重要です。
PRP療法と他の治療法との併用も、効果を最大化するための選択肢として検討できます。適切な治療計画を立てるために、担当医と相談することが大切です。
また、日常生活での予防策を実践することが、PRP療法の効果を維持し、再発や悪化を防ぐために重要です。適度な運動や栄養バランスの良い食事、適切な体重の維持、良好な姿勢の維持、リハビリテーションなど、予防策を心がけましょう。
最後に、PRP療法は自己負担額が大きく、治療を受ける前に、医師や理学療法士から十分に説明を聞いていただき、気になることがあれば、確認していただくことが重要ですので、遠慮なくお問い合わせいただければと思っております。

最新エビデンス
ここでは、PRP療法の最新のエビデンスを紹介します。
- PRP治療により、半月板損傷の進行が抑制され、患者のレーティングスケールでの評価が改善したことが示されています。MRIデータによると、治療後6ヶ月で退行性プロセスの進行が見られなかったことが示されています (Lisitsyn et al., 2021).
半月板の破壊を止めることができるかもしれない! - メタアナリシスによると、PRPは半月板手術時に使用することで、痛みの軽減と膝関節機能の改善に有効である可能性があります。ただし、治療後1ヶ月と12ヶ月以上の時点でのPRPと非PRP群間での有意差はなかったとの報告もあります (Xie et al., 2021).
- PRP治療後の短期間(最大3ヶ月)と長期間(最大3年)での臨床的効果が示され、関節機能の改善と痛みの軽減が報告されています (Bondariev et al., 2022).
中長期での改善報告あり! - 超音波ガイド下でのPRP注射は、外傷性半月板損傷患者の痛みの軽減と臨床的・機能的スコアの改善に効果的であることが示されています (Omara et al., 2023).
PRP注射時には必ず超音波検査を行い、超音波ガイド下にやることが必須です!!