産前産後のリハビリ、なぜ必要?〜将来のあなたのために、今できること〜
出産はゴールではなく、人生の新しいスタート。
「赤ちゃんが無事に生まれたから、もう大丈夫」そう思って、自分の体のケアを後回しにしていませんか?
実は妊娠・出産を経た女性の身体は、大きなダメージを受けています。適切なリハビリをせずに我慢して過ごしてしまうと、10年後、20年後——シニア世代になってから様々な不調として現れることがあるのです。
この記事では、産前産後のリハビリの重要性、ケアを怠った場合の将来的な影響、そして近年注目されている「骨盤底筋のエコー評価」についても紹介しながら、今なぜ“自分の体に向き合うこと”が大切なのかをお伝えします。
1.出産は「スポーツ外傷」と同じくらいのインパクト
妊娠・出産は女性の体にとって、非常に大きな変化です。中でも注目すべきは、「骨盤まわりの筋肉・靱帯」への影響。リラキシンというホルモンの作用で関節や靱帯がゆるみ、骨盤底筋(膀胱や子宮を支える筋肉)は大きな負担を受けます。
分娩時には、スポーツ外傷と同じような筋損傷や神経へのストレスが起こることもあります。つまり、出産はアスリートのケガに匹敵する身体的ストレスともいえるのです。それにもかかわらず、産後の女性の多くがケアも受けずに日常生活や育児をスタートしています。
2. 我慢し続けた先にある「未来の不調」
「出産後、少し尿もれがあるけど仕方ない」
「腰痛がつらいけど、育児中はみんなそう」
「体型が戻らないけど、年齢のせいかな…」
こうした小さな不調を我慢して過ごしてしまうと、将来的に以下のような症状として現れるリスクがあります。
✔️ 骨盤臓器脱(膀胱や子宮が下がってくる症状)
✔️ 慢性的な腰痛・肩こり
✔️ 尿もれや頻尿、切迫性尿失禁
✔️ 骨盤帯の不安定性による歩行困難
✔️ 閉経後の筋力低下に伴う転倒・骨折リスクの増加
特に骨盤底筋の弱化は閉経後に顕著に現れやすく、60代以降の女性で尿もれに悩む方は4〜5割にものぼるという報告もあります。
こうした不調は、シニア世代になって突然起こるのではなく、産後に「きちんと回復できなかったこと」が根本の原因になっている場合が多いのです。
3. 骨盤底筋は“見える化”できる〜エコー評価の活用〜
一般的に骨盤底筋の状態は、問診や触診など主観的な方法で評価します。
当クリニックではこれらに加え、超音波エコー(超音波画像装置)を用いることで、骨盤底筋の動きを“見える化”できます。
どんなことが分かるの?
✔️骨盤底筋がしっかり収縮しているか(筋収縮の有無)
✔️力を入れる方向が合っているか(逆に押し下げていないか)
✔️腹圧がかかるタイミングでの動き(咳・呼吸・体幹運動を行う際の骨盤底筋の状態)✔️トレーニングの効果が視覚的にわかる
スタッフと画面を一緒に見ながら自分の骨盤底筋の状態を確認することで、
「ちゃんと動いてる」「今のやり方で合ってる」といった納得感と安心感を得ることができます。
また、感覚がわかりにくい方にとっても、視覚的に確認できることでトレーニングの習得が早くなるというメリットもあります。
4. 産前産後リハビリでできること
理学療法士による産前産後リハビリでは、身体の状態を医学的に評価し、安全で効果的なアプローチを行います。
産前のリハビリ例
✔️ 腰背部痛・恥骨痛の緩和
✔️ 骨盤の歪みや姿勢の調整
✔️ 骨盤底筋の予防的トレーニング
✔️ 出産を備えた呼吸・体幹コントロール
産前前リハビリはいつから?
安定期(妊娠16週以降)に入り、産科医師の許可があれば開始可能です。腰痛や体の使いづらさを感じた時点で、早めに相談される方が増えています。
産後のリハビリ例
✔️ 骨盤底筋の再教育(トレーニング)
✔️ 帝王切開後の瘢痕(はんこん)ケアと腹筋の回復
✔️ 抱っこ・授乳の姿勢指導
✔️ 肩こり・腰痛のセルフケア指導
✔️ 超音波エコーによる骨盤底筋の機能評価
✔️ 心身のリラックスと自律神経の安定サポート
産後リハはいつから?
経腟分娩で特に合併症がなければ、産後2週間〜1か月ほどから軽い運動や評価が可能です。帝王切開後は傷の経過をみながら6週以降から始められることが多く、状態に応じて調整します。
いずれも医師の確認を得て、無理のない範囲からスタートします。
5.「数年後でも遅くない」いつでも相談を
「もう出産して何年も経っているから、今さら…」
そんなふうに思っていませんか?
実は、産後数年経っていても、リハビリで改善できる症状はたくさんあります。
骨盤底筋や体幹筋は何歳になっても鍛えることができ、正しい姿勢や動作を学ぶことで日常生活がぐっと楽になることもあります。
特に、「年齢のせい」と諦めかけている不調ほど、産後のケア不足が原因である可能性があるのです。
6.まとめ
育児や仕事に追われる日々の中で、自分のことはつい後回しになりがち。
でも、「今のあなたの体」は、これからの人生を支えていく大切な土台です。
出産でがんばった体をしっかり回復させることは、自分へのいたわりであり、未来への投資でもあります。
体の声を“見える化”し、必要なケアを受けることで、より健康で快適な未来を手に入れましょう。
少しでも気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
専門の理学療法士が、あなたの体と心に寄り添います。
参考文献・資料
- DeLancey, J.O. (1999). Structural support of the urethra as it relates to stress urinary incontinence: The hammock hypothesis. Am J Obstet Gynecol, 180(6), 1030-1036.
- Yoshida, M. et al. (2011). Prevalence of urinary incontinence in Japanese older women and associated risk factors. Int J Urol, 18(2), 116–121.
- 日本理学療法士協会(2023)「女性の理学療法」分野資料
- 日本産婦人科学会(2020)「産後ケアガイドライン」
- 中村・斎藤(2018)「骨盤底筋トレーニングの臨床的意義」理学療法ジャーナル 第52巻
- Dietz, H.P. (2004). Ultrasound imaging of the pelvic floor. Part I: Two-dimensional aspects. Ultrasound Obstet Gynecol, 23(1), 80-92.