変形性股関節症のリハビリ
痛みを和らげ、動きやすい身体を取り戻すために。股関節の病気のしくみ、生活で気をつけたいこと、リハビリの内容を、リハビリテーション科の理学療法士がご紹介します。

執筆:さくら通り整形外科クリニック リハビリテーション科 理学療法士 久保田 真弓
監修:さくら通り整形外科クリニック 院長(整形外科専門医)
- 「歩くと股関節が痛い」
- 「立ち上がるときに足の付け根が痛む」
- 「靴下を履く、爪を切るといった動作がしづらくなってきた」
このような症状がある場合、「変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)」が関係している可能性があります。
変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減るなどして、痛みや動かしにくさが生じる病気です。進行すると日常生活にも大きな影響を及ぼすことがあります。
症状や身体の状態に合わせた運動療法や生活上の工夫によって、痛みをやわらげ、股関節の働きを保つことを目指せます。
今回は、変形性股関節症について、次の3つに分けて詳しく解説します。
変形性股関節症とは?
股関節の「軟骨」がすり減ることで起こります
股関節は、骨盤側にある「寛骨臼(かんこつきゅう)」という受け皿と、太ももの骨である「大腿骨(だいたいこつ)」の先端にある「大腿骨頭(だいたいこっとう)」によって構成されています。
股関節は身体を支えながら、歩く、立つ、座る、階段を上るなど、さまざまな動作を行う重要な関節です。
骨と骨が直接ぶつからず、滑らかに動くために重要な役割を果たしているのが「関節軟骨」です。
股関節のつくり
しかし、加齢や長年の負担などによって関節軟骨が徐々にすり減ると、骨同士の動きがスムーズにいかなくなります。
さらに病気が進行すると、骨の変形や関節の隙間が狭くなるなどの変化が起こり、痛みや可動域(関節を動かせる範囲)の制限につながります。
日本では「二次性」の変形性股関節症が多い
変形性股関節症には、明らかな原因がないまま加齢などによって発症する「一次性」と、もともとの股関節の形態異常などを背景として発症する「二次性」があります。
日本人では、発育性股関節形成不全(臼蓋形成不全〔きゅうがいけいせいふぜん〕:受け皿が浅い状態)などを背景とした二次性変形性股関節症が多いとされています。特に女性に多く、中年以降に痛みを自覚する方も少なくありません。
ただし、レントゲン上で股関節の変形があっても、必ずしも強い痛みがあるとは限りません。
「変形している=痛みが強い」という単純な関係ではありません。
筋力、関節の動かしやすさ、歩き方、活動量など、さまざまな要因が症状に関係します。
初期には「動き始めの痛み」が特徴
変形性股関節症の初期には、次のような症状がみられることがあります。
- 歩き始めに股関節が痛い
- 長時間歩くと痛くなる
- 立ち上がるときに足の付け根が痛い
- 階段の上り下りがつらい

症状が進行すると、股関節の動かせる範囲が狭くなり、次のように日常生活にも影響するようになります。
- 靴下が履きにくい
- 足の爪が切りにくい
- しゃがみにくい
- 車の乗り降りが難しい
- 長時間歩けない
そのため、痛みが強くなってから対処するのではなく、できるだけ早い段階から身体の状態を確認し、適切な運動や生活上の工夫を取り入れることが大切です。
02 / DAILY LIFE
変形性股関節症の生活指導
変形性股関節症では、「できるだけ動かさないほうがよい」と考えてしまう方もいます。
しかし、痛みがあるからといって過度に安静にしていると、股関節周囲の筋力が低下し、さらに動きにくくなるという悪循環につながる可能性があります。
安静にしすぎると起こりうる悪循環
大切なのは、股関節に負担をかけすぎない範囲で、適度に身体を動かすことです。
痛みが強いときは「量」を調整する
例えばウォーキングをしている方の場合、「健康のために毎日1時間歩かなければいけない」と無理をする必要はありません。
歩いた後に痛みが強く残る場合には、次のように、身体の状態に合わせて活動量を調整しましょう。
- 歩く距離や時間を短くする
- 途中で休憩をはさむ
- 一度に長く歩かず、何回かに分ける
一度に長時間歩くよりも、無理のない範囲で活動を分けることも一つの方法です。

「動くこと」そのものを避けるのではなく、「痛みを悪化させない動き方」を探すことが重要です。
体重管理も重要
股関節は体重を支える関節です。体重が増加すると、歩行や階段の上り下りなどの日常生活において、股関節にかかる負担も大きくなります。
そのため、必要に応じて体重を適正範囲に保つことも、股関節への負担を減らすために重要です。
ただし、急激な食事制限を行うのではなく、食事内容を見直しながら、無理なく継続できる方法を選びましょう。

「痛くない姿勢」を探す
股関節の痛みがある方は、立ち方や座り方などに特徴がみられることがあります。例えば、次のような動きです。
- 痛い側に体重をかけないように、反対側へ身体を傾ける
- 歩くときに、痛い側の足に体重をかける時間が短くなる
こうした動きは一時的に痛みを避けるためには必要な場合がありますが、長期間続くと身体の使い方の偏りにつながることがあります。
「正しい姿勢」を無理に作るのではなく、現在の痛みや関節の状態に合わせて、できるだけ負担の少ない姿勢や動作を身につけることが大切です。
03 / REHABILITATION
変形性股関節症のリハビリ
変形性股関節症のリハビリでは、単純に「股関節を動かす」だけではありません。痛みの原因や身体の状態を評価したうえで、次のような内容を組み合わせて行います。
- 股関節の可動域の改善
- 股関節周囲の筋力強化
- 体幹や骨盤の機能改善
- 歩行や立ち上がりなどの動作の改善
- 日常生活の指導
まずは「股関節がどのように動いているか」を確認
股関節が硬くなっている場合、股関節を動かそうとしても十分に動かせないことがあります。特に、次のような場合には、股関節の可動域を確認します。
- 「股関節を曲げにくい」
- 「足を開きにくい」
- 「靴下が履きにくい」
ただし、股関節が硬いからといって、強くストレッチすればよいとは限りません。変形の程度や痛みの場所によっては、無理に動かすことで症状が悪化する場合もあります。
「どの方向に、どの程度動かしてよいのか」を確認したうえで運動を行うことが大切です。

お尻の筋肉を鍛える
変形性股関節症のリハビリでは、お尻の筋肉である「殿筋群(でんきんぐん)」のトレーニングが重要になります。
特に中殿筋(ちゅうでんきん)などの股関節周囲の筋肉は、立っているときや歩くときに、骨盤や股関節を安定させる働きを持っています。例えば、次のような運動があります。
- 横向きでの股関節の外転運動横向きに寝て、上側の脚を横に持ち上げる運動です。
- 立って行う股関節の外転運動立った姿勢で、脚を横に持ち上げる運動です。
- ブリッジ運動あおむけで膝を立て、お尻を持ち上げる運動です。
- スクワット膝と股関節を曲げて腰を落とし、立ち上がる運動です。
横向きで脚を上げる(外転運動)
ブリッジ運動
運動の一例の線画です。回数や負荷、脚やお尻を上げる高さは、状態に合わせて理学療法士が決めます。
ただし、同じ運動でも身体の使い方によって負荷のかかる場所は変わります。
体幹・骨盤の運動も大切
股関節だけを鍛えればよいわけではありません。歩行や立ち上がりでは、体幹・骨盤・股関節・膝・足関節などが連動して動きます。
例えば、体幹や骨盤の安定性が低下すると、歩行時に身体を左右へ大きく動かすことでバランスを取ろうとすることがあります。
そのため、股関節周囲だけでなく、体幹や骨盤を含めた全身の動きを評価することが重要です。
歩き方もリハビリの対象です
変形性股関節症では、痛みを避けるために歩き方が変化することがあります。例えば、次のような歩き方です。その人によってさまざまです。
- 歩幅が小さくなる
- 痛い側に体重をかける時間が短くなる
- 身体を左右に揺らして歩く
このような歩行パターンを確認し、必要に応じて歩き方を調整していきます。
また、杖を使用することで股関節への負担を減らせる場合もあります。「杖を使うのはまだ早い」と思われる方もいますが、杖は身体を支えるだけでなく、痛みを軽減しながら安全に歩くための道具でもあります。

使用方法については、理学療法士などの専門家に相談するとよいでしょう。
04 / KEEP MOVING
変形性股関節症は「痛いから動かさない」だけではありません
変形性股関節症になると、「軟骨がすり減っているから、運動するとさらに悪くなるのでは?」と不安になる方もいるかもしれません。
しかし、適切な運動療法は、痛みや身体機能、日常生活動作の改善を目的とした重要な治療の一つです。
大切なのは、現在の股関節の状態に合わせて、無理のない範囲で運動を続けることです。
また、股関節の痛みがあっても、その原因がすべて股関節の変形とは限りません。腰椎(腰の骨)の問題や膝関節、筋肉・腱など、別の部位が痛みに関係していることもあります。
股関節の痛みに関係することがある部位
そのため、「股関節が痛いから股関節だけを治療する」のではなく、身体全体を確認することが大切です。
SUMMARY
まとめ
変形性股関節症は、股関節の軟骨のすり減りや骨の変形などによって、痛みや動かしにくさが生じる病気です。
症状が進行すると、歩行だけでなく、靴下を履く、爪を切る、階段を上るなど、日常生活のさまざまな場面に影響することがあります。
一方で、変形があるからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。痛みの程度や関節の動き、筋力、歩き方、日常生活での身体の使い方などを確認し、その人に合った運動療法や生活指導を行うことが重要です。
当院では手術は行っておりません。手術が必要と判断した場合は、連携する医療機関にご紹介します。紹介先で手術を受けたあとのリハビリテーションは、当院で継続していただけます。
「歩くことがつらくなってきた」
「以前より足が動かしにくい」
「手術をするほどではないけれど、今のうちに何かしたい」
このような場合には、まず現在の身体の状態を確認してみることをおすすめします。
早い段階から自分の身体の状態を知り、適切な運動や生活習慣を取り入れることで、「痛みがあるから何もできない身体」ではなく、「痛みと上手につき合いながら動ける身体」を目指していきましょう。
当院のリハビリについては「リハビリテーション科」のページを、膝の運動についてはスタッフブログ「変形性膝関節症でも筋トレは必要?」もあわせてご覧ください。
この記事を書いたスタッフ
リハビリテーション科/理学療法士
久保田 真弓
くぼた まゆみ/福井県福井市出身
私自身3児の母で、子連れでの受診に抵抗がありました。当院は赤ちゃん連れ大歓迎です。産後のトラブルでお悩みの方も、お気軽にお越しください。
- 資格
- 理学療法士免許/Core Power Yoga CPYトレーナー/全米ヨガアライアンス RYT200
- 経歴
- 2004年 福井医療技術専門学校 卒業
2004〜2006年 たなか整形外科・眼科
2007〜2016年 福井大学医学部附属病院
2016〜2023年 リハビリ特化型デイサービス 新田塚アークリハ - 学術活動
- 2007年 第23回東海北陸学術大会
2008年 理学療法福井/第12回福井県理学療法士学会
2008年 第24回東海北陸学術大会
2009年 福井県糖尿病懇話会
2009年 第25回東海北陸学術大会
股関節の痛みや動かしにくさが続くときは
歩くと痛い、靴下が履きにくい、今のうちに何かしたい。
気になる症状があれば、ご相談ください。
福井県福井市日之出4-11-17(さくら通り沿い)/整形外科・リハビリテーション科
本記事は、変形性股関節症について一般的な情報をお伝えするものです。症状のあらわれ方や経過には個人差があり、記載の内容がすべての方に当てはまるものではありません。紹介した運動は一般的なもので、症状や関節の状態によっては適さない場合があります。実際に行う際は、医師・理学療法士の指導のもとで行い、痛みを我慢しないでください。診断と治療方針は、診察のうえで個別に判断します。




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